本研究は、これまでに申請者が開発した超親水性水酸化フラーレン合成技術を応用し、およそ1ナノメートルの粒径をもつ水溶性水酸化フラーレンナノカーボン粒子に蛍光色素を結合させ、蛍光顕微鏡などを用いて生体組織観察が可能な新規蛍光イメージング分子の開発を目的とする。昨年度は、低度水酸化フラーレンにピレン部位を導入することに成功し、リンカーの長さによってエキシマー蛍光の発現や蛍光寿命に変化が見られることを解明した。 今年度は、新たに水酸化フラーレンとFITCとの反応を行い、蛍光部位として、可視領域に強い発光のあるフルオレセイン部位の導入に成功した。構造の同定は各種分析手法により行い、蛍光部位がフラーレン骨格に対し1つ導入されたと見積もられた。また、蛍光消光実験により、ピレンに比べてFITCのほうが、エネルギー移動による蛍光の損失が1/2.5に抑制されることを確認し、実際に蛍光量子収率が2倍高いことを明らかにした。その結果、より蛍光顕微鏡観察しやすい蛍光標識水酸化フラーレンとなることが期待される。さらに、水酸化フラーレンが異性体混合物であるという欠点を克服するため、医薬品に応用可能な単一異性体水溶性フラーレン誘導体の創成へと研究展開し、水酸化フラーレンに代わる2-メチルマロン酸フラーレン六付加体の合成を検討した。現段階では、エステル二付加体の二つの位置異性体をそれぞれ構造決定することに成功し、反応機構に関する知見を得たと共に、異性体混合物の状態としてではあるが、水溶性のカルボン酸ナトリウム塩型の2-メチルマロン酸フラーレン六付加体を得ることに成功している。今後、水酸化フラーレンとの比較を行うことで、それぞれの長所を活かした応用が期待される。
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