本研究は、超高真空中において、原子スケールの平坦性とストイキメトリーを保った理想的な接合界面を持つ強磁性トンネル接合(MTJ)構造を単結晶表面上の超薄膜構造として作製して、界面状態を評価したうえで、放射光を用いた分光測定により、その電子状態を観測することが目的である。本年度は、これらのうち、超薄膜のMTJ構造作製に取り組み、この研究全体の基礎となる実験環境整備と、理想的な界面を持つ試料を作製するための試料作製条件等の探索に重点を置いて、研究を実施した。本年度の具体的な研究実績は、以下の通りである。 (1) 放射光ビームラインにおける実験環境整備 本研究では、試料作製から放射光を用いた実験まで、一貫して超高真空下でその場実験を実施する必要があるので、超薄膜MTJ試料の作製と構造評価が放射光ビームラインで実施可能な環境構築を行った。既存設備に、超高真空エバポレーターを導入して試料作製環境を整えるとともに、電子線回折装置にCCDカメラを導入して表面構造解析のためのシステムを構築した。また、軟X線吸収分光実験を実施する放射光実験システムを改良し、MJT試料の界面および強磁性層の磁気状態・磁気特性を調べるための環境を整備した。これらの複合的なその場実験システムの概略を国際会議で発表した。 (2) 超薄膜MTJ構造の作製 超薄膜試料の作製準備として、Ag(001)基板の超高真空下における結晶クリーニングを実施して清浄表面を得た。Ag(001)基板上にMgを蒸着できることを確認して、MgO超薄膜を育成するための酸素分圧条件を探索した。
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