自己組織化ナノチューブハイドロゲルのライブラリ構築を行った。疎水部メチレン鎖の両端に親水部としてグルコースとオリゴグリシンを有する非対称くさび形脂質群を設計・合成し、水中における自己集合挙動及びゲル化能を詳細に検討した。メチレン鎖の長さ、グリシン残基数の違いが自己集合形態に大きな影響を及ぼすことを見出した。グリシン残基の末端がカルボキシル基の場合、脂質分子(0.1wt%)を水中で100℃に加熱溶解後、室温まで徐冷すると水媒体がゲル化することが分かった。各種電子顕微鏡観察、粉末X線回折やIR等の分光化学的測定により、ハイドロゲル内では内径10nm以下、長さが数μ~数十μmに及ぶ単分子膜ナノチューブが形成していることが明らかとなった。また、グリシン残基の末端がアミンの場合、脂質分子(0.1wt%)を弱酸性水媒体に分散させ、水酸化ナトリウムの添加により弱アルカリにするだけで、水媒体が瞬時にゲル化することが分かった。室温下、pH変化を駆動力とするナノチューブハイドロゲル形成に世界で初めて成功した。また、アゾベンゼンを連結した脂質分子群が光照射によるアゾベンゼン部位のトランスーシス構造異性化によりナノチューブを形成することが明らかとなり、光刺激応答性ナノチューブの開発にも成功した。 ナノチューブハイドロゲルには、ナノファイーバーから成る従来の高分子架橋ハイドロゲルや超分子ハイドロゲルが持ち得ない2つの空間、即ちナノチューブ同士が形成する3次元網目空間とナノチューブ自身の1次元中空シリンダーが存在することを実証した。実際、両空間に生体高分子を固定化し、変性剤に対する耐性を検討したところ、網目空間に固定化した生体高分子は瞬時に変性が生じたのに対し、中空シリンダーに固定化した生体高分子は内径サイズに依存して変性が強く抑制されていることが分かった。両空間の生体高分子の束縛度の違いを反映した結果であり、分離の選択性に大きな影響を及ぼすことが示唆された。
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