エチレンジアミンの両端にオリゴグリシンとアゾベンゼンをそれぞれアミド結合を介して連結した両親媒性モノマー分子群を設計・合成し、水中において自己集合させたところ、内径10-20nmの固体状二分子膜構造からナノチューブ群を形成することが明らかとなった。得られたナノチューブに紫外光を照射すると、固体状態にも関わらず二分子膜内でアゾベンゼン部位がトランスーシス構造異性化を起こし、それに伴いナノチューブが内径数nm以下のシリンダー状ナノファイバーへと形態変化することを見出した。さらに可視光を照射すると、アゾベンゼン部位の可逆的なシスートランス構造異性化に伴い、シリンダー状ナノファイバーが中空構造を持たないヘリカルナノテープへと形態変化することが分かった。これにより、ナノチューブの中空シリンダーに包接したゲスト分子を光照射によってバルク水中へと放出可能であることも明らかとなった。 平成21年度に開発したpH駆動型ナノチューブハイドロゲル化剤(=カチオン性非対称双頭型脂質分子モノマー)とゲスト分子として塩基性アミノ酸を包接した上記の光刺激応答性ナノチューブをキャピラリー内に充填した。検出窓から紫外光続いて可視光を照射し、光刺激応答性ナノチューブの形態変化により放出した塩基性アミノ酸がカチオン性非対称双頭型脂質分子モノマーを中和することで、キャピラリー内でナノチューブハイドロゲルを形成させることに成功した。ナノチューブハイドロゲルを実装したキャピラリーを用いて、DNAの電気泳動分離を試みたが、分離の再現性が得られなかった。ナノチューブ同士が形成する3次元網目空間のサイズの不均一性及びハイドロゲルの収縮・相分離が原因であることが推定された。そこで、ナノチューブの1次元中空シリンダー(ナノチャネル)におけるDNAの泳動について、蛍光顕微鏡観察と蛍光共鳴エネルギー移動を組み合わせた手法を用いて詳細に検討した。ナノチャネルにおけるDNAの拡散係数の値が、塩基数に依存することが明らかとなり、ナノチューブ1本によるDNAの分離デバイス創出の可能性を新たに提示することが出来た。
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