細胞の接着、増殖、分化、アポトーシスといった動態は培養環境に強く依存するため、細胞チップの開発においては微細構造上に適切な環境を構築する必要があり、細胞の足場となる細胞外マトリクス(ECM)を微小領域に固定化する技術が望まれている。一方、細胞チップの多くはpolydimethylsiloxaneで作製されており、チップを組み立てる際に表面を酸素プラズマによって活性化し、流路をシールすることが多い。しかしECMは酸素プラズマによって容易に分解するため、保護工程が煩雑だった。そこで平成23年度はマイクロチップの作製を簡便化するため、新たなECMマイクロパターニング法を検討した。まず凹構造を有するマイクロチャンバーアレイとそれに接続する複数のマイクロ流路を有するマイクロチップの構成部品(マイクロ流路層)のマイクロチャンバーアレイ全面にECMの水溶液を接触させることでECMを修飾した。次にマイクロチャンバーと物理的に寸法と配置が適合する凸構造の物理マスクを押し当て、プラズマ照射して物理マスク外のECMを分解した。この工程を経ることで物理マスク外ではECMが分解された後、表面が活性化される。この活性化表面に平滑なPDMS板を重ねてマイクロチャンバーおよび流路をシールした。作製したマイクロチップに20kPa程度の圧力印加によって培地を送液したところ一切のリークなく、十分な耐圧性を有していた。また作製されたマイクロチップ内では様々な株化細胞を培養することが可能で、本法適用後もECMの細胞接着活性が維持されていることが示された。本法によりマイクロチャンバー底部にのみECMを修飾し、同時にマイクロ流路をシールするために必要な接着面の活性化を一工程で達成できることを示した。本法はECMのマイクロパターニングと接着面の活性化を一工程で達成できるため、細胞チップの量産化技術としての応用が期待できる。
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