研究概要 |
本研究は,待ち行列モデルおよび保険リスク評価モデルにおける稀少事象確率に対する高精度かつ高効率な評価を可能とするべく,M/G/1型やGI/G/1型などの構造化されたマルコフ連鎖の定常裾確率の漸近解析と,ランダム時点における累積過程のサンプリング結果に対する裾漸近解析などの基礎研究を行うものである.平成21年度は研究計画に則り,以下に述べる3つのテーマについて研究を行った.まず1つ目は,BMAP/GI/1待ち行列とM/G/1型マルコフ連鎖の劣指数的漸近特性についての研究である.前者については,裾の重いバッチサイズ分布やサービス時間分布が,待ち行列長や待ち時間分布の裾確率に与える影響を明らかにし,その成果をまとめた論文が査読付き英語論文誌に掲載された.一方,後者については,定常分布の裾が劣指数的に減衰するための既知の十分条件を緩和すると共に,先行研究の誤りを正した.既にその成果を国内研究会で発表しており,現在,査読付き英語論文誌への投稿準備を進めている.2つ目に,M/G/1型マルコフ連鎖を一般化したGI/G/1型マルコフ連鎖の定常分布の幾何的および劣指数的漸近特性について調べた.このテーマに関する研究は完結しておらず,平成22年度以降も継続して行う予定であるが,これまでの成果の一部を国内研究会で発表した.3つ目は,裾の重いランダム時点における累積過程のサンプリング結果に対する裾漸近解析である.先行研究でよく仮定されている基本条件が成り立たない場合,サンプリング結果の裾確率の漸近公式は陰パラメータを含んだ非常に扱いづらいものになってしまうが,本研究ではそのような場合でも漸近的な上限と下限については単純な公式が成立することを示した.現在,その成果をまとめ,査読付き英語論文誌への投稿準備を進めているところである.
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