本年度は研究実施計画に基づき、前年度から継続してマーケティング戦略に関する研究を発展させると共に、新たにサプライチェーン戦略に関する戦略的意思決定モデルの開発とその理論的解析を行った。具体的にはまず、独占的に提供している製品に関するサプライチェーンにおいて、工程の上下流に関わらず任意の企業が契約のリーダーとなり得る状況下での垂直統合の利益性とそのもとでの合理的利益配分について基礎的な検討を行った、そして次に、製品開発に関するプラットフォーム企業とコンテンツ企業との提携の問題を考え、提携ネットワークの安定性や最適性について検討を行った。その結果、前者については、各企業が契約のリーダーとなることに対して悲観的である場合に限って全企業による垂直統合は安定的となり得ること、またそのもとでの利益配分については、垂直統合下では最も川下であるリテーラー企業に多く配分すべき場合が多いこと、が主な示唆として得られた。一方、後者については、プラットフォーム企業とコンテンツ企業との間にブランドによるシナジー効果が存在することが、ネットワークの安定性と最適性の両立を保証するための必要条件となることが分かった。今回扱った内容に関する先行研究はもちろん多数存在するが、それらはいずれも少品種大量生産という従来型の市場を前提としたビジネスモデルに関する理論ばかりであり、本研究によってロングテール市場におけるサプライチェーンに関する戦略的意思決定について、科学的な議論の促進に貢献できたと考えられる。 なお本研究の成果として、本年度は既に2本の論文が海外論文誌または書籍(査読付)に掲載または掲載確定されており、さらに2本の論文が現在審査中という状況である。
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