海上交通ルールの最大の特徴は、海上交通ルール適用時機や衝突回避時機といった重要な判断時機について明確な基準を示さず、すべて操船者の判断に委ねていることである。そのため操船者によって判断は異なり、本研究はその特徴を追究しようとするものである。 本年度においては、まず実務経験者に対する衝突回避判断内容に関するヒアリング調査を行った。ヒアリング調査は先行研究を基に行い、ヒアリング協力者の内訳は、外国航路に従事する者10人、国内航路に従事するもの13人、漁師19人であった。その結果、特徴のある船舶交通場面が抽出され、また種々の考え方が示された。質問紙調査作成のために重要な知見となった。 次に、上述のヒアリング調査から得られた知見を用いて実行動と質問紙の関係を検討するための質問紙を作成した。さらにヒアリング調査から、実船調査において十分なデータが得られない可能性が指摘されたため、実船に近いデータを取得するべく、簡易操船シミュレータソフトを用いて衝突回避時機を判断させる映像を複数場面作成した。これらの映像は質問紙と同様の場面とした。 平成21年8月7日から8月9日、および平成21年11月26日から11月27日にかけて、国内航路海運会社が運航する実船舶に便乗し、判断時機および操船判断内容に関する実船調査を行った。8月は台風によるうねりが大きく衝突回避操船事例は当初計画された事例数を収集できなかった。11月については瀬戸内海を航行したが、船舶が多すぎるために衝突回避操船が連続することから求める判断時機が重なり合い、その結果当初計画された事例数を収集できなかった。しかしながら、便乗調査中に作成した衝突回避時機を判断させる映像を当該船舶の操船者に示しインタビューを実施した。その結果、映像の有効性を確認することができたので、来年度に向けて映像を併用し研究を進めることとした。
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