本年度は、大型、中型、小型の船舶操船者に対して、映像実験と質問紙調査を実施した。大型船はおもに外国航路の、中型船は主に国内航路の、小型船は漁船の操船者であった。映像実験に予想外の時間を要したが、各群20名以上のデータを確実に確保した。海上交通ルール知識に関する質問紙調査の結果から、条文番号や航法のルール名といったラベル的な知識には差があり、大型船の操船者は中型および小型船の操船者よりも得点が高かった。しかしながら海上交通ルール上とるべき行動についての知識については群間に差は認められず、海上交通現場において衝突回避のための海上交通ルールの知識に問題がないことが示唆された。衝突回避判断時機に関する映像実験と質問紙調査を比較したところ、映像実験と質問紙調査は同様の結果を示さなかった。パソコンを用いた簡易な映像を用いたことによる影響は否定できないが、映像実験の結果から距離情報を与えない場合には、衝突回避判断時機は普段操船する船舶の大きさの影響を受けない可能性が示唆された。映像実験の特徴から質問紙調査が海上交通現場を反映していると考えられた。質問紙調査の結果から衝突回避判断時機は、普段操船する船舶の大きさの影響を受けることが示唆された。具体的には、小さい船舶の操船者は大きい船舶の操船者の判断時機を想定できないため、常に大きい船舶が衝突回避行動をすることが示唆された。このように、小さい船舶と大きい船舶との間に衝突のおそれが生じた場合、普段操船する船舶の大きさの影響のために、海上交通ルールはルールの理想通りに機能しないことが示唆された。
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