平成22年度までの、実務経験者を対象とした調査の結果、海上交通における衝突回避判断の時機(タイミング)およびどのように衝突を回避するかといった操船方略は、いずれも船舶の大きさ(船型)に大きく影響されることが示された。具体的には、小さい船舶を操縦する者は大きい船舶を操縦する者よりも有意に判断時機が遅いために海上交通ルールが理想的に機能していないこと、また小さい船舶を操縦する者は自船にとって都合の良い操船方略を選択することが明らかになった。これらの知見をベースに、23年度の研究は、海上交通における衝突回避に関する教育プログラムを立案し、その実施と効果測定を行った。具体的には次の通りである。 1.教育プログラムの立案 操船判断時機の差異および操船判断に関する知見について教授し、技能レベルに応じた安全な操船判断を行う教育プログラムを立案した。教育プログラムの立案に際しては、これまでに本研究で得られた知見、ならびに先行研究で明らかにされている学生の特徴を考慮した。教育プログラムは、座学と実習ならびに討議から構成された。 2.教育プログラムの実施と効果測定 神戸大学海事科学部学での船舶実習において立案した教育プログラムを実施した。学生を教育実施群と教育未実施群に分け、効果測定を行った。教育未実施群には事後にフォローアップ教育を行った。分析の結果、教育プログラムの実施により、(1)教育を実施した船舶船型の影響を受けること、(2)操船方略を柔軟に選択できるようになったこと、(3)教育プログラムと海上交通ルール知識には関連がないことが示唆された。
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