建物が地震動を受けたとき、天井と床が相対的に水平に変位(層間変位)する。建物の損傷程度を定量的に評価するためには正確な層間変位の履歴が必要だが、建物の中では計測基準点を作れないうえにセンサ設置部ですらたわんでしまうので、従来方法では誤差が多いことが問題であった。また、製造業における機械部品の信頼性評価では、「破壊実験」「応力解析」「変位計測」を複合的に実施しているが、建設業では、建物の「破壊実験」と「変位計測」の技術が未発達であったため、応力解析のみによる信頼性評価が主流となっていることが問題である。本研究の目的は、建物の中に設置しても正確な層間変位計測ができる光学式の変位計を開発し、実建物における適応性を検証することである。昨年度の研究において実建物加振実験を実施し、層間変位の挙動を分析することによって、正確な層間変位計測を達成するためには、2方向の層間変位だけでなく、2方向のセンサ設置部の傾斜角および鉛直方向のねじれ角も同時計測できる5自由度の計測が必要であるという課題を抽出した。そこで本年度の研究では、複数のPSDユニットとLED光源を組み合わせることによって、センサ設置部の局所的な回転によって生じる誤差の影響を除去して、正確な層間変位計測を可能とする、5自由度層間変位センサを開発し、動作検証を行った。次に、(独)防災科研のE-ディフェンスにおいて、実大4層建物の破壊実験に参画し、5自由度層間変位計測による実建物の破壊過程の実測を世界で初めて成功させた。5自由度層間変位センサによる計測結果は、将来的にプッシュオーバー解析等と融合させることにより、建物の構成部材レベルでの損傷部位の特定および構造健全性のリアルタイムな定量評価が実現できるものと考えられる。本成果により、建築構造物の信頼性評価のために必須と考えられる、建物の「破壊実験」と「変位計測」を両方達成した。
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