本研究の目的は、流域管理による水防災政策の実現可能性を、技術的・経済的・法制度的観点から検証するとともに、効果的・効率的で持続可能な水防災政策とその実現方策を探ることである。前年度は、水災害危険度の高い地域に対する各種規制や、浸透貯留施設の設置などの流域管理的対策を実施することによって、どの程度水災害被害を軽減することができるのか、技術的・経済的な観点から検討した。当該年度は、防災・減災行動に対する補助金制度に着目し、自治体で準備されている制度について調査した。その結果、家屋のかさ上げ、防水板の設置といった、水災害に対する事前対策に対する補助金制度を実施している自治体が相当数あることが明らかとなった。そこで、このような水災害に対する事前の対策と、不幸にも被災してしまった世帯への復旧支援を両立するような制度の実現可能性を探るため、東海地方を対象として検討に着手した。この制度は次のようなものである。まず、各世帯が掛金を積み立て、水災害からの復旧を支援するための基金を設立する。災害が発生した場合はその基金から復旧支援金を支払う。災害が発生せずに基金に余裕がある場合は、事前対策を促進する補助金として使用する。このような制度が成立するためには、ある程度広い領域を設定して水災害のリスクを空間的に分散させる必要がある。したがって、上述の制度の実現可能性を検討するためには、広い領域を対象として水災害の発生を模擬し、それに伴う被害額を算出することが必要となる。そこで、広域雨水流出氾濫計算モデルを東海地方に適用し、2000年の東海豪雨における雨水流出氾濫状況が再現できるか調査した。その結果、全体的な被災状況は再現できたものの、詳細な部分の再現性が不十分であることが明らかとなった。今後は、モデルの解像度を高める、詳細な河道断面形状を考慮するなどの改善が必要であると考えられる。
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