研究概要 |
遺伝子の発現は、転写開始から翻訳終結に至る様々な段階で調節を受けており、その多くでRNAと蛋白質との相互作用が中心的な役割を果たしている。また、高等真核生物において大量の非翻訳RNA(non-protein-coding RNA、ncRNA)が存在する事が明らかになっているが、その中には、tRNAやrRNAのように特異的な立体構造を形成し、蛋白質と直接相互作用してその機能を制御する新規な機能性ncRNAも存在すると推測される。本研究では、試験管内分子進化(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment、SELEX)法を応用して、生体内で蛋白質と相互作用する新規なRNA因子群を同定し、高等真核生物におけるRNA-蛋白質相互作用を介したゲノム調節動態(ribonucleopro-teome、RNPome)の解明を目指す。前年度までの研究で、ヒト培養細胞より抽出した全転写産物を初期プールとして用いた改良SELEX法により、転写伸長制御因子であるHEXIM1蛋白質とCAD(carbamoy1-phosphate synthetase 2,aspartate transcarbamy lase, and dihydroorotase) mRNAが相互作用する事が明らかとなっていた。当該年度では、同相互作用の生物学的な意義を検証するため、ヒト培養細胞をもちいた実験系ならびに試験管内実験系による解析を進めた,その結果、同相互作用が細胞内でも実際に存在する事、HEXIM1と相互作用する事が既知である7SK snRNAとCAD mRNAが互いに競合し結合様式も類似している事が明らかとなった。さらに、同相互作用に必須なRNA構造が、2塩基のバルジを含むシンプルなステム構造である事が判明した。続いて、同様のステム構造をヒトゲノムデータベースより検索し、同定されたRNAとHEXIM1との相互作用を検証したところ、複数のmRNAがHEXIM1と細胞内で相互作用している事が示された。以上の結果は、HEXIM1が、RNAポリメラーゼIIの転写伸長活性を普遍的に制御するという既知の機能とは別に、特定のmRNAと直接相互作用し、その動態を特異的に制御するという新規な発現調節機構を担っている事を示すものである。
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