研究概要 |
本年度はヒト染色体移入技術を用い,母方ヒト15番染色体をヒト神経芽細胞SH-SY5Yに移入することで,自閉症患者で高頻度に認められる母方アレル特異的な15q領域の重複細胞株を人工的に作製した。興味深いことに,作製した細胞株ではゲノムコピー数が増加したにもかかわらずヒト15番染色体上のGAB受容体β3サブユニットGABRB3遺伝子やニコチン性アセチルコリン受容体α7サブユニットCHRNA7遺伝子の発現量が著しく低下していた。さらに,15q重複細胞株においてGABRB3遺伝子座特異的な染色体のペアリング(trans-effect)の消失とPWS-IC(Imprinting Control Region)相互作用(cis-effect)の変化が観察された。従って,これらの遺伝子の発現には何らかの近接するcisおよびtrans-effectが必須であり,15q重複により変化した各々の核内配置の異常が遺伝子発現異常を引き起こしたと推測された。そこで,15q11-q13領域の核内配置がどのような分子によって制御され,神経特異的な遺伝子発現が規定されているか明らかにするため,15q11-q13領域,約10Mbにわたり各々の遺伝子座の核内配置をDNA-FISHで解析した。その結果,染色体のペアリングがGABRB3遺伝子近傍領域で特異的に生じていることを見出した。さらに,その染色体のペアリング領域を詳細に解析した結果,ペアリング領域にクロマチンタンパク質であるMeCP2とCTCFの結合部位を複数見出した。そこで,母方と父方15番染色体の相互作用におけるMeCP2やCTCFの機能を明らかにするため,各々の遺伝子のノックダウンSH-SY5Y細胞を作製し,15q11-q13の核内配置を解析したところ,MeCP2やCTCFのノックダウン細胞で染色体ペアリングの異常が観察された。このように,本研究結果からMeCP2やCTCFを介した核内配置の制御が自閉症など発症機序に関与している可能性が示唆された。
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