大腸菌病原性遺伝子制御因子LeuOによるゲノム発現制御機構の解明を目的にGenomic SELEX実験を行ったところ、LeuOのゲノム上結合領域を12ヵ所同定し、従来指摘されていた機能既知遺伝子yjjP-yjjQ間領域を除く11ヵ所が新規であった。これらの領域への結合はゲルシフトアッセイにより確認された。新たに同定したLeuO結合領域は、薬剤耐性やバイオフィルム形成に関与する遺伝子群の転写レベルを決定するプロモーター領域であった。この結果は、LeuOの潜在的な制御を示し、その多くに病原性細菌の病原性の発揮に重要な遺伝子群が含まれていた。そこでLeuOによる、支配下遺伝子群への転写制御機構の解析を行った。2009年度は特に、薬剤耐性遺伝子群について研究を実施した。ノーザンブロッティング解析により、LeuOによる支配下遺伝子群への転写レベルへの制御を解析した結果、3つの薬剤耐性遺伝子オペロンを活性化していることが明らかとなった。またPhenotype Microarrayシステムを用いて、LeuOが生育阻害剤への耐性に与える影響を観察したところ、LeuOの発現により複数の薬剤への抵抗性が上昇することが分かった。さらに個々の支配下遺伝子の欠損株を用いて薬剤耐性への機能解析を行ったところ、機能未知であったyjcRQPオペロンがサルファ剤への耐性遺伝子であることが同定され、この遺伝子群をsdsRQP(sulfa drug sensitivity determinant)へと改名することを提案した。これらの研究成果は、細菌における薬剤耐性獲得やバイオフィルム形成などの病原性微生物が持つ病原性発現機構の普遍的分子メカニズムの理解に役立つであろう。
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