大腸菌病原性遺伝子制御因子LeuOによるゲノム発現制御機構の解明のために、ゲノム上の結合領域を同定する目的でGenomic SELEX実験を実施した。これまではGenomic SELEXで得られたDNA断片はクローニング・シークエンシング(SELEX-clos法)によって解析されていたが、この方法では転写因子との親和性が低いターゲットを同定する事が困難であった。そこで本年度は、Genomic SELEXのDNA断片の解析にタイリングアレイ(SELEX-chip法)を用いることで、簡便にかつ網羅的にDNA断片を解析する手法の確立を試みた。システムの確立のために、転写因子の機能が良く理解されており、結合認識配列が決定されている転写因子CraおよびCRPを解析した。この二つの転写因子は大腸菌炭素源代謝のグローバルレギュレーターとして知られている。SELEX-chip法で解析を行ったところ、Craは既知結合領域数23カ所に対して新規結合領域を144カ所、CRPについては既知結合領域数170カ所に対して179カ所もの新規結合領域を同定する事に成功した。これらの新規ターゲットには転写因子の結合認識配列が保存されていた。また、新規に同定された推定支配下遺伝子群への制御機構の解析を行ったところ、実際に制御していることが確認され、炭素源代謝における新たな役割が提案された。これらの結果から、SELEX-chip法の有効性が確認されたので、LeuOの解析に応用した。その結果、既知結合領域数15カ所に対して新規結合領域が125カ所も同定された。結合領域を解析したところ、外来性遺伝子群の包括抑制因子であるH-NSの結合領域と重複していたため、LeuOがゲノム上の広域においてH-NSの抑制化を解除している可能性が示唆された。新規支配下遺伝子群にはバイオフィルム形成に関与する繊毛や外膜タンパク質をコードする遺伝子が多く存在しており、転写制御解析から、実際にこれらの遺伝子群がLeuOおよびH-NSによって遺伝子発現制御がおこなわれていることを同定した。
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