研究概要 |
サンゴは「褐虫藻」と呼ばれる植物プランクトンと共生している。わずかなストレスでサンゴから褐虫藻が抜け出し、白化現象と呼ばれるサンゴ-褐虫藻共生システムが崩壊し、最終的にサンゴが死滅する。しかし、これまでのサンゴの生物学的研究においては、分子レベルでの知見はほとんど無いのが現状である。サンゴが直面する危機、「白化現象」を生物学的に深く理解するためには、サンゴ-褐虫藻の共生機構とストレス応答メカニズムの分子レベルでの知見は欠かせない。本研究では「サンゴ-褐虫藻共生体」を一つの「生命体」として考え、「次世代シークエンサー」を用いて、サンゴのストレス時の遺伝子発現応答を、これまでに無いレベルで網羅的に解析する。そして(1)ホスト(サンゴ)の分子レベルでの温度ストレス応答機構の種間での違い、と(2)サンゴ-褐虫藻生命体の共生メカニズムの分子機構、を明らかにする事を目的としている。 21年度はコユビミドリイシ、Acrioira digitiferaの遺伝子データベースの構築を行った。様々な発生ステージと成体から単離したmRNA(遺伝子)を、二種類の次世代シークエンサー(454,illumina)により解読した。その結果、約55,000のユニークな配列を取得した(N50size:794bp,最長11,151bp)。これらのデータは、コユビミドリイシのゲノム配列からの遺伝子予測にも用いられ、現在約33,000の遺伝子が予測されている。これらはゲノムワイドなサンゴ(コユビミドリイシ)のストレス応答解析の基盤データとして十分活用出来る。これまでに次世代シークエンサーによるトランスクリプトームの解析はあまり報告されてなかったが、当年度に解析手法の確立も行った。そのため、今後ストレスに強い別のサンゴや褐虫藻のトランスクリプトーム解析がスムーズに進む事が期待される。
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