サンゴは「褐虫藻」と呼ばれる植物プランクトンと共生している。わずかなストレスでサンゴから褐虫藻が抜け出し、白化現象と呼ばれるサンゴー褐虫藻共生システムが崩壊し、最終的にサンゴが死滅する。しかし、これまでのサンゴの生物学的研究においては、分子レベルでの知見はほとんど無いのが現状である。サンゴが直面する危機、「白化現象」を生物学的に深く理解するためには、サンゴ-褐虫藻の共生機構とストレス応答メカニズムの分子レベルでの知見は欠かせない。本研究では「サンゴ-褐虫藻共生体」を一つの「生命体」として考え、「次世代シークエンサー」を用いて、サンゴのストレス時の遺伝子発現応答を、これまでに無いレベルで網羅的に解析する。そして(1)ホスト(サンゴ)の分子レベルでの温度ストレス応答機構の種間での違い、と(2)サンゴ-褐虫藻生命体の共生メカニズムの分子機構、を明らかにする事を目的としている。 22年度にコユビミドリイシの遺伝子情報からcDNAマイクロアレイを設計し、温度ストレスを与えたサンゴの網羅的遺伝子発現解析を行った。現在データの解析中である。さらにコユビミドリイシ・ゲノムプロジェクトの進展により、コユビミドリイシのほぼ全ての遺伝子の情報が高品質で明らかになった。このデータを元に、新たにcDNAマイクロアレイの設計を行った。これにより、真の「ゲノムワイド」なサンゴの遺伝子発現解析が可能となり、マイクロアレイ解析にかかるコストを半分に減らす事が出来た。さらに単離培養している褐虫藻のトランスクリプトーム解析も開始しており、「サンゴ-褐虫藻共生体」の分子レベルでの研究が軌道に乗りつつある。
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