天然には、連続した不斉点を有するポリエーテルとよばれる化合物群がある。構造上の特徴であるポリエーテル骨格は、ポリエンに対するエポキシ化と生じたエポキシドの連続的な開環反応により生合成されると推定されているが、その詳細については不明な点が多い。 こうした背景のもと本研究では、ポリエーテル骨格構築機構の普遍性について検証することを目指して研究を開始した。具体的には、単純な構造を有するラサロシドをモデル化合物に選び、ポリエーテル骨格の構築を触媒すると予想された2種類の酵素(エポキシ化酵素、エポキシド加水分解酵素)に焦点を絞り、触媒能の同定、反応機構解析、基質特異性の検討を行った。その結果、エポキシ化酵素(Lsd18)については、フラビンアデニンジヌクレオチドを補酵素として利用するモノオキシゲナーゼであること、また、リナロールからリナロールオキシドへのエポキシ化を触媒することを確認した。一方、エポキシド加水分解酵素(Lsd19)については、N末側のドメインが内部のテトラヒドロフラン環の構築を、C末側のドメインが外部のテトラヒドロピラン環の構築をそれぞれ独立に触媒することを解明した。また、エポキシド加水分解酵素間で高く保存されている一組の酸性アミノ酸残基が酸・塩基触媒として作用することでエポキシドの開環反応が触媒されることも解明した。 本研究成果は、ポリエーテル環構築機構の一端を酵素レベルで明らかにしたものであり、ポリエーテル骨格構築機構解明の礎となる学術上重要な知見である。
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