研究概要 |
現在全世界でHIV感染者は5,000万人に及ぶとされており、特に近年ではアジア地域での感染者が増加傾向にあるため、効果的な治療薬の開発が望まれている。本年度は、Faulknerのグループにより単離・構造決定され、顕著なHIVプロテアーゼ阻害活性を示す海洋天然物ディデムナケタールの効率的な全合成法の開発を行った。まず、C9-C21セグメントに相当するスピロアセタール部分に着目し、この部分構造の立体選択的構築を検討した。C9-C11およびC13-C15ユニットをそれぞれ(S)および(R)-Rocheエステルから誘導し、これらをJulia-Kocienski反応により立体選択的に連結した。不斉ジヒドロキシ化によりC11およびC12の不斉点を導入した後、数段階でC9-C15セグメントに相当するヨウ素体を得た。一方、C16-C21セグメントに相当するエノールホスフェートは、(R)-グリシドールから閉環メタセシス反応と立体選択的な共役付加反応により合成した。これらセグメントを鈴木-宮浦反応により連結した。すなわち、Marshallの方法に従い、C9-C15セグメントをリチオ化してアルキルボレートへと変換した後、これを単離することなく、C16-C21セグメントとPdCl2(dppf)触媒存在下、塩基として炭酸セシウム水溶液を用い、DMF中室温で反応させると、良好な収率で目的とする環状エノールエーテルを得ることに成功した。続いて、熱力学的支配条件下でスピロアセタール化を行うと、目的とするC9-C21セグメントを単一の立体異性体として得ることに成功した。
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