ハエトリソウの閉葉運動の原因を解明するために、まず、NMRスペクトルでは解析を行うことが困難な無機成分に着目し、金属カチオン量を測定した。キャピラリー電気泳動装置を用いて、各精製段階における金属カチオンの一斉分析を行った。その結果、活性値の減少が見られた、すなわち精製効率の悪い段階においては金属カチオン含有量が大幅に減少するという結果が得られ、ハエトリソウの閉葉活性が金属カチオンに大きく依存するということが示唆された。そこで、実際に活性物質のカウンターカチオンの種類による活性の変化を調べることにした。遊離カルボン酸型(-COOH)として精製したジャスモン酸配糖体を用いて、各種アルカリ塩で中和することでカウンターカチオンを置換し、それぞれの活性を調べた。なお、各金属塩の純度についてはキャピラリー電気泳動装置を用いて90%以上の純度であることを確認した。30枚のハエトリソウ補虫葉のうち10枚以上の葉が閉葉活性を示した場合に活性があると判断し、カウンターカチオンによる活性値の変化を調べた結果、遊離カルボン酸型(-COOH)の場合に対して、ナトリウム塩の場合は約10倍の活性強度で閉葉活性を示した。さらに、カリウム塩の場合においては約100倍の活性強度で閉葉活性を示し、金属カチオンの種類によってハエトリソウの閉葉活性が大きく変化することが判明した。しかしながら、ハエトリソウの補虫運動の完全解明には、葉の運動をモニターするだけでなく、運動を惹起する直接的なメカニズムとして知られている活動電位の発生の時間変化をモニターする必要がある。これは、導管経由で活性物質を導入する方法では難しく、植物体に活性物質を素早く導入し、直後からの電位変化をモニターできる実験系の構築が必要である。
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