植物は病原体から身を守る独自の免疫システムを有している。この免疫システムは病原体由来の物質(エリシター)を認識することにより誘導されるが、人為的にエリシター様活性物質を処理することによって、植物に病害抵抗性を付与することが可能である。本研究では、ランダムペプチドライブラリのスクリーニングにより見出した、6残基からなる植物免疫活性化ペプチド(PIP-1)の詳細な免疫誘導機構の解明、ならびに受容体の同定に向けた標識体の設計・合成を行った。 まず、PIP-1の作用が細胞膜上の受容体を介して引き起こされているかどうかについて検討した。PIP-1のすべての残基をD体アミノ酸で置換した鏡像類縁体を合成し、その活性を測定したところ、得られた類縁体には活性が認められなかった。この結果からPIP-1の活性は、抗菌性ペプチドで見られるような細胞膜への物理的作用によるものではなく、キラリティーを認識するタンパク質受容体を介したものであることが示唆された。次に、受容体を検出・同定するための放射性ラベル体の合成を想定し、このペプチドへのヨウ素導入を検討した。N末端のTyr残基にヨウ素を導入したところ、活性が著しく低下したため、この位置への導入は難しいことが明らかとなった、そこで、活性に影響のないC末端のHis残基をCysに置換し、側鎖チオール基とマレイミド基との反応を利用して、間接的なヨウ素化を試みた。その結果、Cys置換体は高活性を保持し、ヨウ素化フェニルマレイミドの導入後も活性は変化しなかったことから、本類縁体は放射性ラベル体として使用できることが分かった。
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