植物は病原体由来の物質(エリシター)を認識することにより、過敏感細胞死、過酸化水素の発生、ファイトアレキシンの生成など様々な防御応答を開始する。我々は、これまでにタバコに対してエリシター活性を示す6残基ペプチドPIP-1を見出した。このペプチドは、過酸化水素の発生ならびにファイトアレキシンであるカプシジオールの生成を誘導するが、それぞれに必要なPIP-1の濃度には違いがあり、後者はより高濃度の処理を必要とした。本研究では、その要因を明らかにすることを目的として、PIP-1の植物による分解と防御応答との関係について調べた。 PIP-1(100μM)をタバコ懸濁細胞に処理し、経時的に培地中のPIP-1関連成分の変動を調べた。その結果、PIP-1は植物細胞による分解反応を受けて、1時間後には半分程度に減少し、3時間後にはほぼ消失していることが明らかとなった。このことから、分解によってPIP-1の作用が長時間持続できないことが、ファイトアレキシン生成の誘導に高濃度のPIP-1処理が必要である要因と考えられた。そこで、PIP-1を10μMの濃度で1回処理した場合と、1μMの濃度で3時間にわたって一定間隔で10回処理した場合のカプシジオール生成誘導活性を比較した。その結果、1回のみ処理した場合は、カプシジオールの生成が確認されなかったが、10回与え続けた場合は効果が認められた。このことから、PIP-1のファイトアレキシン生成の誘導には、少なくとも3時間程度継続して作用し続ける必要があり、植物は防御応答において、短時間の刺激と長時間の刺激を区別していることが明らかとなった。また、分解を受けにくい類縁体を合成することによって、低濃度でもファイトアレキシン生成を誘導することが可能であることが示唆された。
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