研究概要 |
本研究の目的は,島嶼における各種亜熱帯・熱帯植物から多様な抗真菌性タンパク質およびその遺伝子を単離し,その構造と抗真菌活性との相関を明らかにすることである。平成21年度までに,植物由来各種キチン分解酵素(キチナーゼ)の遺伝子クローニング,発現系構築等を行い,抗真菌活性を調べた結果,等電点が高いキチナーゼほど,また糖質加水分解酵素ファミリー19の方がファミリー18よりも抗真菌活性が強いという傾向が見られた。 平成22年度はまず,新たにナガハハリガネゴケ(Bryum cronatum)由来キチナーゼ-A(BcChi-A)の遺伝子クローニングおよび発現系構築を行い,その構造と抗真菌活性を調べた。BcChi-Aは糖質加水分解酵素ファミリー19の触媒ドメインのみからなり,他の同ファミリーと比較して多くのループ領域が欠損していることが分かった。本キチナーゼは全く抗真菌活性を示さなかった。ループ領域が抗真菌活性に影響していることが推察された。また,糖質加水分解酵素ファミリー19の触媒ドメインとキチン結合ドメインを持つパイナップル緑葉由来キチナーゼ-c(PLChi-c)は同様の構造を有する他のキチナーゼと比較して極めて抗真菌活性が低いことが分かった。抗真菌活性の強いキチナーゼとの構造比較から,PLChi-cの分子表面のアミノ酸残基を段階的に置換した変異体を作成し,その等電点,加水分解活性,キチン結合活性および抗真菌活性について調べた。その結果,野生型よりも等電点が塩基性側にシフトした変異体はいずれも,加水分解活性およびキチン結合活性が低下したが,抗真菌活性は上昇した。これらの結果から,等電点の高いキチナーゼが抗真菌活性が高いことが明らかとなった。本研究成果により,抗真菌タンパク質であるキチナーゼの構造と抗真菌活性との相関の一端が明らかとなった。 これらの成果の一部は学術雑誌に投稿され原著論文1報,総説1報が受理された。また一部の成果は学会で発表し,現在そのデータを基に投稿準備中である。本研究の応用は,より強いまたは特殊な抗菌作用を示す抗真菌剤の開発へ寄与することが期待される。
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