研究概要 |
本研究の目的は、コイの日本在来系統のほぼ唯一の生き残りとして非常に貴重な「琵琶湖の深層に生息する,コイ(琵琶湖深層コイ)」について、その保全に資するべく、生物学的な基礎情報を得ることにある。より具体的には、国外から導入された養殖系統との遺伝的識別方法を確立すること、さらに、これまでほとんど採集されていない魚体標本を採集し(深層にいるため採集が難しい)、これに基づいて形態学的特徴を明らかにすることを調査の第一目標としている。初年度である平成21年度には、沖島漁協の協力によって50個体を越えるコイを琵琶湖の深層から採集することに成功した。これらについてミトコンドリアDNAの解析を行ったところ、ほぼ全個体が日本の在来系統を母系因子として持つことが判明し、「琵琶湖深層コイ」の代表として形態学的な解析を行うにふさわしい標本であることが確認できた。これらの魚体標本は、研究協力者である神奈川県立生命の星・地球博物館の瀬能宏博士の協力の下、ホルマリン固定の標本に仕上げ、博物館のコレクションとして登録した。魚体内部の形態解析を魚体標本を壊さずに行う方法として、X線CT検査の適用を検討したが、残念ながらこの方法は、ホルマリン固定したコイの標本にはあまり適さないことが判明した。初年度の期間内には、生物学的基礎研究の一環として、琵琶湖の北湖でコイの産卵調査も予備的に行った。この際、コイと同時期に産卵し、卵や仔魚の状態では区別しづらいフナ類を遺伝的に簡便に区別する方法が必要であることに気づいたので、その開発を行った(本方法はコイの在来・導入系統の区別も同時に可能)。
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