研究概要 |
本年度は、外来木本種であるアカギが、侵入先である小笠原の樹木群集と原産地である沖縄の樹木群集の中で相対的にどのような機能的性質を持っているのかを明らかにすることを目標の一つとして研究を行った。小笠原と沖縄からそれぞれアカギを含む20~30樹種の生葉を採取し、植物の成長に関わるSLA(葉重量/葉面積)と葉の窒素濃度、また葉の被食防衛、落葉分解抑制に関わるDMC(葉乾燥重量/葉生重)、総フェノール濃度、縮合タンニン濃度を測定した。その結果、まず小笠原樹木群集において、アカギのSLA,DMC,窒素濃度は群集の平均値と大きく変わらなかったが、縮合タンニン、総フェノール濃度に関しては、アカギは小笠原樹木群集の中で飛びぬけて高い値を持っていることが明らかとなった。一方、沖縄群集の中では、アカギはどの葉の性質においても平均値に近い値を持っていた。さらに、総フェノール、縮合タンニンに注目してみると、沖縄のアカギに比べて小笠原のアカギはそれらの濃度が2倍程高くなっていた。縮合タンニン、総フェノールはタンパクと結合する能力があり、土壌中の有機物を分解しにくくする性質を持っている。つまり、小笠原の生態系において、在来群集と比較して高い縮合タンニン、総フェノールを持つアカギの侵入は、有機物分解を抑制することにより生態系の炭素・栄養塩循環を大きく変えてしまう可能性が示唆された。このことは、外来植物が侵入先の生態系の栄養塩循環に影響を与える一つのメカニズムとして新しく、このメカニズムの詳細を解明することは、生態系における外来植物の影響を予測する上で重要である。
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