外来生物の逸出は様々な過程を通じて在来生物に多大な影響を及ぼしている。例えば、外来種と在来種の間で種間交雑が生じた場合、形成された種間雑種が多様な環境に侵入、定着することによって、更に多くの影響を引き起こすと予測される。本研究の目的は、外来樹木の逸出による生態系への影響を分子生態学的視点から評価することである。本年度は要注意外来生物に指定されているトウネズミモチと、トウネズミモチに近縁で遺伝子浸透による攪乱(遺伝子汚染)が懸念されているネズミモチに着目し、AFLP分析による遺伝的差異の検出と、交配実験による種間の交配親和性の検証を試みた。AFLP分析に関しては、昨年度明らかにした最適条件および最適プライマーペアを用い、野外自然集団の解析をおこなった。交配実験に関しては、ネズミモチとトウネズミモチの開花期がずれていたため、昨年度採取した保存花粉を用いて実施した。調査の結果、両者の間で人工的な受粉作業をおこなった場合には少量の果実が生産される可能性が示唆された。しかし、花粉の保存状態が悪く、花序への物理的損傷も認められたことから、信頼できるデータは得られなかった。野外自然集団においては、AFLP分析の結果、雑種と思われるものは存在せず、全てが純粋なネズミモチもしくはトウネズミモチと判定された。以上の結果から、現段階において、トウネズミモチとネズミモチの間で大規模かつ広範な遺伝子浸透(即ち、ネズミモチの遺伝子汚染)が生じている可能性は低いと考えられる。今後、さらに網羅的な調査が必要であるが、遺伝子汚染という側面から見た場合、トウネズミモチの逸出によるネズミモチへの影響は、従来指摘されていたよりも低いものと推察された。
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