外来生物の逸出は様々な過程を通じて在来生物に多大な影響を及ぼしている。例えば、外来種と在来種の間で種間交雑が生じた場合、形成された種間雑種が多様な環境に侵入、定着することによって、更に多くの影響を引き起こすと予測される。さらに近年では、他の「地域」から持ち込まれる同一種に対しても、生物学的な交配障壁が存在しないために、遺伝的攪乱を引き起こす危険性が高いとの指摘がなされている。このような視点から、昨年度は、要注意外来生物に指定されているトウネズミモチと、トウネズミモチに近縁で遺伝子浸透による攪乱(遺伝子汚染)が懸念されているネズミモチに着目し、AFLP分析による遺伝的差異の検出と、交配実験による種間の交配親和性の検証を試みた。その結果、両者の間に潜在的な交配親和性はあるものの、野外集団において、大規模かつ広範な遺伝子浸透(即ち、ネズミモチの遺伝子汚染)が生じている可能性は低いことが明らかとなった。さらに本年度は、古くから有用樹木として利用され、国家的な管理・運営が行われてきたクスノキに着目し、その遺伝分析の基礎となるマイクロサテライト遺伝マーカー(SSRマーカー)の開発を実施した。開発はLian and Hogetsu(2002)及びLian et al.(2006)の手法に基づいて行い、最終的に計22のSSRマーカーを設計することが出来た。また、これらのマーカーを使った予備実験の結果、集団によって対立遺伝子の頻度やハーディ・ワインバーグ平衡からのずれ、連鎖不平衡の程度に著しい違いがあることが明らかになった。これは、集団レベルでの履歴の違いを反映したものと考えられ、開発したSSRマーカーがクスノキの集団遺伝学的解析に有効であることを示唆している。一連の成果は、American Journal of Botany(Primer Notes & Protocols in the Plant Sciences)に掲載された。
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