生物多様性の損失が依然として続く中、その動態の現状を把握することで適切な対策を提案することが強く求められている。日本でもこれまで様々な種を対象とした全国モニタリング体制が整備されてきたが、蓄積されたデータを統一的にモデル化し、生物多様性動態を詳細に把握する試みはほぼ皆無であった。このモデル化を阻んできた大きな障壁のひとつが、全国規模で多数の調査員によって得られたデータに特有な欠損値や大きな測定誤差の存在である。そこで本研究では、階層ベイズモデルに代表される先端的な統計手法を用い、様々なモニタリングから得られる情報量の違いに合わせて生物多様性動態の傾向を把握する手法を確立することを目的とした。 まずNPO法人バードリサーチによって全国モニタリングデータのデータベース化が進められているシギ・チドリ類を対象に、1975年から35年間に渡って100カ所超の調査地で記録されてきた個体数カウントデータを整理し、調査地点・調査年による個体数の違いを考慮した階層ベイズモデルを適用することで42種の個体群動態を表す個体数指数を作成した。推定された個体数指数から、各種において過去10、20、30年間における個体数変化率を算出することで、秋期には16種、春期には12種がいずれかの期間において有意な減少を示していることを明らかにした。 また、環境省及び日本雁を保護する会によって1980年代から全国で渡来個体数、標識個体の有無が1記録されているマガンと、英国において同様のデータが蓄積されているオグロシギを対象とし、階層ベイズモデル(空間状態モデル)を適用することで、個体生存率、繁殖成功度など個体群動態を理解するために必須のパラメータ推定を行った。 また鳥類の長期的な個体数変化に影響を及ぼす要因を検討するため、水田地帯に生息するサギ類を対象とし、採食成功度と繁殖成功度の関係を明らかにする野外調査を開始した。
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