研究概要 |
生物多様性の損失が依然として続く中、その動態の現状を把握することで適切な対策を提案することが強く求められている。日本でもこれまで様々な種を対象とした全国モニタリング体制が整備されてきたが、蓄積されたデータを統一的にモデル化し、生物多様性動態を詳細に把握する試みはほぼ皆無であった。このモデル化を阻んできた大きな障壁のひとつが、全国規模で多数の調査員によって得られたデータに特有な欠損値や大きな測定誤差の存在である。そこで本研究では、階層ベイズモデルに代表される先端的な統計手法を用い、様々なモニタリングから得られる情報量の違いに合わせて生物多様性動態の傾向を把握する手法を確立することを目的とした。 本年度はまず、昨年度に開発したシギ・チドリ類42種の個用体数指数を対象に、水田を利用する種群、沿岸域を利用する種群といったグループごとに幾何平均で指数を統合することで、各生態系における生物多様性の状態を示す指標へと高度化させた。この指標は環境省によって作成された生物多様性総合評価においても国内の貴重な事例として採用された。 また、イギリスの植物405種を対象として250年間にわたる開花時期変化を表わす指数を開発した。用いたデータは、イギリス全土で断片的に集められた395,564件に及ぶ開花日の記録である。階層ベイズモデルによって推定された1753-2009年の開花時期指数によって、イギリスの植物群集は直近の25年間に最も早い開花時期を示していることが明らかになった。指数は2-4月のCentral England Temperature平均と負の相関関係にあり、気温が1℃上昇する毎に指数は5.0日早い開花時期を示していた。モデルによって種ごとの開花時期指数も同時に推定され、今後より詳細な種レベルでの解析へ発展が望まれる。
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