本研究は、中流域における河川環境劣化機構の一部を明らかにし、今後の河川生態系保全に資することを目的としている。本年度の研究成果について次に述べる。調査研究計画に基づき、調査対象区間において河床地形を詳細に把握するために、カヌーおよび魚群探知機による河床地形測量を行った。さらに河床低下に伴い露出した粘土性の河床の特性を把握するために、放射性炭素同位体測定による年代推定を行った。また、粘土性河床面の水生生物にとっての餌環境としての質を評価するために、クロロフィル濃度(一次生産量の指標として)計測を行った。その結果、これまで、縦断方向200メートルピッチでしか得られていなかった河床地形を連続的かつ効率的に把握することができた。調査対象区間全域にわたり河床面が自然状態に比べて不連続的になっており、数か所において著しい局所潜掘が進行していることが明らかになった。また、粘土性河床の年代測定から、表面を形成する有機物は少なくとも現在より1600年程度古いということが明らかになり、河床低下に伴い本来露出することのない古代の堆積物層が露出してきていることが明らかになった。そして、粘土性河床の表面のクロロフィル測定から、粘土性河床面は砂礫から成る自然河床材料に比較して、相対的に低い生産性を示すことが示唆された。また、現地での観測から粘土性の河床面には公害虫として認知されているオオシロカゲロウが著しく高い密度で生息していることが確認された。わが国においては、中下流域の河川環境を対象にした既往研究事例が極めて少なく、本研究から明らかになりつつある知見は河川管理上極めて重要である。今後は、水生昆虫群集の生息環境やアユの餌場としての河床環境劣化の定量化を進めるとともに、他の河川の状況を把握し、世界中で報告されている河床低下の詳細な現状および将来予測を行っていく予定である。
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