コアマモZostera japonica(アマモ科)は、日本列島を中心にサハリンかベトナムまでの潮間帯~潮下帯、沿岸の汽水域などに生育する。海草の中では最も広い生育温度域を持ち、葉などの形態変異も大きいため、種内分類群や生態型が示されることもあった。そこで、分布域全体からの60集団について、葉緑体DNA(psbA-trnH、trnL-F)と核DNA(phyB)の塩基配列を決定し、種内の遺伝的構造を解析した。その結果、ハプロタイプ解析では、葉緑体と核のいずれにおいても、本州中部地域から主に北に分布するハプロタイプ群と南に分布するハプロタイプ群が存在し、系統的に起源の異なる2つの系統群にあたることが明らかになった。境界領域では交雑している個体が検出されたことから、両グループ間で完全な生殖隔離が起きているわけではない。既存の分類形質では、北型と南型の共有派生形質を見いだせず、三木(1933)の3型:1)細く短い葉とシュート(海岸の浅瀬)、2)広く長い葉とシュート(汽水)、3)広く長い葉、生殖シュートを付けない(栄養塩の多い河川)および、大場&宮田(2007)の2亜種:Z.japonica subsp. japonicaコアマモとZ.japonica subsp. austroasiaticaナンカイコアマモは支持されなかった。しかし、南北の2グループは、系統的背景及び分布傾向から分類群として(あるいは種として)認められる可能性はある。 コアマモ内の系統群が現在も明確な遺伝的グループとして維持されていたことから、散布の制限だけでなく、適応的要因が分布傾向に関与している可能性がある。
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