本年は、まず9月に北タイ・チェンマイ郊外のニローターラーム尼僧院を再訪し、同尼僧院において滞在調査を実施した。調査期間中は雨安居の時期にあたり、尼僧院長が新たに受け入れた新参沙弥尼の僧院教育が実施されていた。これらの約20名の沙弥尼たちの半数以上は、これまでメーチーとしての修行経験を有し、招来、比丘尼になることを志しているというよりも、尼僧院長の人徳を慕い、他の尼僧院・僧院では経験できない沙弥尼としての僧院教育を試行的に体験していた。調査期間中、尼僧院長および先輩格の比丘尼による新参沙弥尼の指導、比丘尼と沙弥尼、比丘尼・沙弥尼と比丘、メーチー、一般在家者との関係について、参与観察を重ね、記録した。この調査結果の一部は11月に駒澤大学で行われたパーリ学仏教文化学会定例研究会でも報告した。10月には、再びタイを訪問し、バンコクの華人宗教コミュニティで九皇斎の儀礼に参与しながら、タイ華人比丘尼および道教・仏教の女性修行者についての予備調査を行ったが、個人的ネットワークに依拠しているため、アクセスが容易ではなく、調査協力者との信頼関係を築きながら、詳細な調査を今後の課題として残すこととなった。本報告書執筆後ではあるが、本年度の予算により、平成23年3月後半に、タイとスリランカの複数の尼僧院を訪問し、その発展の経緯に関する聞き取り調査を行う予定である。タイでは東北タイの比丘尼尼僧院を、スリランカでは台湾のサンガの支援を受けて受戒した二つのグループを訪問する予定である。
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