本研究では、連続した比丘尼サンガを継承してこなかった主要上座部仏教国であるタイとスリランカの二カ国で、1990年代末以降、新たに創設・拡大が図られている比丘尼サンガの復興の動きを比較・検討した。特に、スリランカでは多数の主要な女性修行者が比丘尼に移行し、比丘尼サンガ復興の動きが大勢を占めているのに対し、タイでは比丘尼になる女性の数が比較的少数にとどまっている要因について、調査・考察を行った。スリランカでは、男性出家者の比丘と比較すると、女性修行者の宗教的・社会的地位及び役割は、相対的に低位にあると考えられてきたものの、女性修行者の中にも大きな格差があることが分かった。有力な女性修行者が、比丘の寺院から独立した独自の尼僧院を持ち、そこを拠点として弟子の育成・近隣コミュニティのための宗教活動を行うなど、比丘とそん色ない役割を果たしている一方で、困窮した女性修行者は、参拝客の多い寺院の境内で物乞い同然の生活を送っていた。スリランカでの比丘尼サンガ復興は、有力な女性修行者が集団で比丘尼に移行することにより、比丘尼が社会に定着したと考えられる。他方、タイの女性修行者は、比丘の強力な宗教的権威・影響力のもとにあり、スリランカの女性修行者ほどの自律性が確保できない状況にあると言える。そのため、比丘尼となるタイ人女性は、有力女性修行者からなる団体に属さない意欲的個人に限られており、タイでの比丘尼への移行はスリランカほど容易ではないと考えられる。
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