本年度は、前年度までの現地調査結果および収集資料で不十分な点を補足すべく調査を続けるとともに、マイクロファイナンスの貧困女性の政治意識を理解するための分析視角を理論的に検討した。当初2012年2月に予定していたインド社会経済変動研究所(ISEC)の訪問は、相手側の研究者の出張期間と重なったためこちら側からの現地訪問は中止としたが、別途電子メール等を使って農村地方政治に関する意見交換を行った。これまでの現地調査で得られたマイクロファイナンスの貧困女性たちがミーティングで歌う歌に関して、詳細に分析を進めた。映像および音声データの内容をテクスト・データに変換して内容分析を行った。また、映像データから歌う女性たちおよび歌を聴いている周囲の女性たちを観察した。歌詞の中には、夫との関係、姑との関係の苦悩を歌にした箇所や、自分の両親との離別や生まれてきた境遇を嘆く箇所、周囲で支えてくれる女性たちの存在を賛美する箇所などがある。女性たちの表情に変化がみられたのは、周囲の女性を賛美するフレーズの部分であった。貧困女性を支える存在として、近隣女性が強い影響をもっていることがうかがえる。こうした分析結果から言えば、アンケート調査等の構造化インタビューの手法で貧困女性が日々の暮らしで意思決定に関われているのかを探るには、質問項目に姑・夫・両親との関係に加えて、近隣の友人関係も加えることが重要であると考えられる。2009年度に発表した「マイクロファイナンスと陳情行動の論文では、貧困女性で村集会(グラム・サバー)に積極的に参加しているのは、近隣女性グループで構成されるマイクロファイナンスのメンバーであったことを指摘したが、本研究の課題である「貧困女性の私的・公的な意思決定への参加を左右する要因」の一つとして、近隣女性との交友関係が重要であることがうかがえた。
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