先入見に関するカントの思想を、同時代の思想的文脈において考察し、それに基づいて現代的意義を検討した。カントは、自らの先入見概念をヴォルフ学派に属するマイアーの影響の下に展開したが、「人民にとって欺かれることは有益であるか」という1780年ベルリン・アカデミー懸賞問題を契機として、先入見を公共的議論によって徐々に克服してゆくことの重要性を明示的に意識するようになった。こうした背景を理解することで、現代の思想家にも多大な影響を与えているカントの「理性の公共的使用」のもつ倫理的・政治的意味を見定めることができる。
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