本研究の目的は、西洋倫理思想における功利主義の位置づけおよびその現代的意義を明らかにするという全体構想の一部として、功利主義が常にその論敵としてきた直観主義に焦点を合わせ、思想史における「功利主義vs直観主義」論争の変遷と現代の倫理学における直観の方法論的意義を解明することである。具体的には、第一に、これまでの功利主義関連の思想史研究を踏まえ、「直観」をキータームとして通史的な検討を行う。それによって抽出された論点を踏まえ、第二に、生命倫理学やその他の関連領域における功利主義と直観主義の理論的・実践的争点を明確にし、今後の課題と展望を示す。 上記の目的を達成するために、思想史的研究に関して、1.20世紀以前、2.20世紀前半、3.20世紀後半以降の三期に分け、これまでの功利主義関連の先行研究を踏まえ、直観をキータームにして研究を行うことにより、「功利主義vs直観主義」という論争の構図を明らかにする。それによって抽出された論点を踏まえ、生命倫理学やその他の関連領域における功利主義と直観主義の理論的・実践的争点を明確にし、今後の課題と展望を示す(4.)。 本年度は、研究全体(1.~4.)に関する文献検索・収集を開始するとともに主に1.について研究を進めた。その成果は、2009年12月に京都大学文学研究科で行った集中講義(「功利主義対直観主義」)となり、現在、一冊の著作として公刊の準備中である。また、2010年3月の研究会では、「ハート・デブリン論争再考」と題し、二十世紀英国における同性愛合法化論の論争を、功利主義と直観主義の論争の一側面として捉えて再検討した報告を行った。
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