研究課題
本研究の二年度である22年度の研究実績は、以下の三つの視点から、デリダにおける民主主義論の基底をなす論点を解明した点にある。一つ目は、議会制民主主義について。カール・シュミットは、ヴァイマール共和国下において「永遠の討議」に明け暮れる議会制民主主義の無力を説き、主権者による決断主義の重要性を説いたが、本研究は、決断の思想とも要約されるデリダの政治哲学が、シュミットの決断主義への批判を通して、議会制民主主義に対していかなるスタンスをとりうるのだろうかを検討した。その成果は英語で公刊された。二つ目は、「ならず者」について。「ならず者」とは、9・11以降、ブッシュ政権下のアメリカ合衆国が、国際法を尊重しない「テロ支援国家」を指して用いた言葉だが、デリダ晩年の主著『ならず者たち』のテーゼは、ならず者を名指して軍事攻撃を仕掛けるアメリカのように、国家のテロルは少数の特定の国家ではなく、世界中に遍在し、ならず者はいまや至るところに存在する、というものであった。この事態は、民主主義にとっていかなる帰結をもたらすのだろうか。サミュエル・ウェーバーによるデリダの「ならず者」論(2008)を翻訳紹介することを通じて、訳者解題として、そのような問いに答える論点を明らかにした。三つ目の補足的な視点として、革命のイメージ。ジュネをめぐるデリダ未公刊講演にもとづき、ジュネがパレスチナ革命にみた革命のイメージをデリダがどのようにとらえ直したのかを論じた。これは、デリダのジュネ読解のアプローチから浮かび上がってくるデリダ特有の政治哲学を照射するものとなった。
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ユリイカ
巻: 43-1 ページ: 190-199
みすず
巻: 583,584 ページ: 18-34,6-22