本研究は、アリストテレス『形而上学』中核諸巻(ZHO巻)における実体論および現実態論の中から、とくに「普遍」の概念に関する問題と、「デュナミス(能力/可能性/可能態)」の概念に関する問題を取り上げ、それらの概念の意義を明らかにすることを試みた。「普遍」については、『形而上学』Z巻第13-16章における主張、すなわち、「普遍は〈実体〉ではない」という主張をどのように理解するべきか、とくに、形相〈実体〉として認められるは普遍であるという見方と、その主張とが矛盾していないのかどうかという問題について考察した。その際、普遍的な形相が個別的な形相なしには存在しないことに着目して、その主張が個別的な形相を語る文脈の中で行われていることが重要であると解した。「デュナミス」については、能力の存在を否定するメガラ派の見解の批判において、「可能性」の概念が明確にされ、そこからさらに、「質料」にも適用される「可能態」の概念が明確にされる道筋を明らかにし、また、「可能態」としての「質料」についても、アリストテレスの自然学的な考察を手がかりに、理解を深めることができた。
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