ミシェル・フーコー後期の思想における「主体」理論を主題的に検討した前年度の研究を基礎にしつつ、現在の哲学的・社会的コンテクストにおける「主体」理論の展望を示すことを目指した。プログラムを当初の予定(精神分析・心理学の系譜的研究)からやや変更して、まずフーコーがその主体論を提唱するに至る背景としてのフランス科学認識論の系譜(バシュラール、カンギレム)を検討した。それによって、フーコーが科学認識論の系譜に連なっているだけでなく、ジャン・カヴァイエスの数学理論などからも問題設定上の大きな影響を受けていることを指摘し、その成果については学会発表と論文として発表した。また、現代哲学における主体理論との関係から見た構造主義理論の再検討を行うことを企て、レヴィ=ストロース等の初期の構造主義理論がサルトルらの主体理論をいかに批判し、主体と歴史の関係をどのように科学化したかを研究した(この問題については今後も研究を継続したい)。今年度の研究において、主としてフランス現代哲学における「主体批判」の系譜を明らかにすることができたが、今後は「批判」にとどまらない、肯定的な主体理論の構築のされ方についても検討する必要がある。今年度はそのための準備段階として、主体が主体自身に対して働きかける契機としての「批判」や「啓蒙」という主題をめぐってカント、フーコー、ハーバーマス等の議論を検討したが、この問題系についてはさらに研究を進め、今後の展開を期すこととしたい。
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