年度初めの研究実施計画に掲げていた通り、今年度は女性と身体についての倫理学的研究を主要なテーマとして研究を進めた。昨年度後半にユダヤ思想協会のシンポジウムにて、レヴィナス思想における「女性的なもの」について提題したが、今年度初めにはそれを推敲し直して論文にまとめた。さらにその内容をもとに昨夏には研究会で研究発表を行った。それらの考察と議論を経ることで、レヴィナス思想における「女性的なもの」の意義を明らかにするとともに、女性的なものを身体性、苦しみ、倫理的関係との関連の中で考察することで本研究課題全体の研究の中に有意味なかたちで位置づけることができた。またそれジェンダー研究との関連を意識しつつ行うことで、レヴィナス思想にとどまらない女性と身体についての倫理学的考察を行う足がかりをある程度築くことができた。 また、実践的研究の重要な一部を成す、生殖技術にかかわる研究に関しても、ジェンダー・女性・身体という観点に重点をおきつつ哲学・倫理学的に考察し、11月の哲学会大会のワークショップ「動物と生殖」において「生殖と他なるもの」という主題で提題を行った。さらに今年度初頭に行われた第4回東アジア応用倫理学・応用哲学国際会議での発表準備として、生殖技術のうちとくに出生前診断をめぐる問題に焦点をしぼって研究を進めた。この過程で、出生前診断やそれと関係の深い人工妊娠中絶をめぐって、女性やカップルがときに苦しみ葛藤する状況、またその中心に女性の身体がおかれている様を浮き彫りにすることができた。
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