本研究は、儒教が国教化された前漢代の儒教研究を「中心的原点的研究」とし、儒教が社会の様々な方面に影響を与えていた清代の儒教や江戸期の日本儒教の研究を「周縁的研究」と見なして、「内」と「外」、「本」と「末」の双方より実証的に検討を重ね、東アジアにおける儒教を体系的に捉え直そうとするものである。その過程において、中国及び日本の文化に儒教が如何に影響を与ええたのか、ひいては、儒教とは何かを解明するための一助としていきたいと考えている。 まず、「中心的原点的研究」の「前漢代における儒教国教化の研究」では、董仲舒対策と前漢代における経学理論の形成の検討を終了し、すでにそれぞれを報告にまとめあげた。これらは、近日中に何らかの形で公開する予定である。 次に「周縁的研究」では、清朝文化の日本への東伝という文化交渉の現象の中でも、とりわけ特徴的な一例である清朝の木活字出版「聚珍版」の東伝が日本の近世木活字の盛行をもたらした可能性について考えた。 清朝で形作られた「聚珍版」の「雅馴」という独自の観念が我が国に伝えられ、受容されたことは、すでに定説となっているが、それがどの程度、どのような形で受容されたかについては、いまだ議論をされたことがない。 そこで、本報告「「聚珍版」の東伝と我が国の近世木活字出版文化の形成」では、我が国に伝存する近世木活字の版本や江戸時代末期の文章より「聚珍版」の用例とその観念を直接確認した結果、「聚珍版」に関する多数の用例が発見され、清朝で生み出された木活字による出版を「雅馴」と見なす観念が、近世日本にも受容されていたことが理解されたのである。 こうした事例は、中国を源流とする儒教思想が日本の社会へ受容されていったことと密接な関連があり、今後注意を要することであろう。
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