研究概要 |
古代インドでは牛を中心とする牧畜生活が行われ,多彩な乳製品が基本食物とされていた。しかし,それらの具体的な加工法の解明と同定はされていない。本研究ではヴェーダの祭式文献から知られる以下の発酵乳製品について,加工法の解明と同定を行った:ダディ(dadhi),サーンナーィヤ(samnayya),アーミクシャー(amiksa),パヤスヤー(payasya),アータンチャナ(atancana)。各製品は,祭式の供物或いは供物を調理する際の材料として頻出する。基本資料は,ヴェーダの散文文献中最古層に位置するヤジュルヴェーダ学派の文献(紀元前10~8世紀頃),本年度は特に『タイッティリーヤ・サンヒター』II5,3,5-6,『シャタパタ・ブラーフマナ』16,4を中心に,補助資料として『パウダーヤナ・シュラウタスートラ』13,『アーパスタンバ・シュラウタスートラ』113-14等も精査した。 上記資料は従来,サーンナーィヤを供物とする特別な新月祭の準備規定と理解されてきた。報告者は博士論文(2002年東北大学)においてこの理解が古層のマイトラーヤニー及びカタの両サンヒターには当てはまらないことを指摘した。本年度はこの仮説をより精密に検討し,口頭発表を行った(第5回ヴェーダ学ワークショップ,ブカレスト)。また,発酵乳とソーマとをめぐる神話の背景にある展開点を示す動詞ati-pavi/pu「ソーマがacc.を越えて清まる→ソーマを飲んで下痢をする」について,語形と語義の展開を跡付けた(第62回日本印度学仏教学会,京都)。ソーマが身体症状を惹起するという神話モチーフが神学議論の展開とどのように連関しているか,という新たな問題点が明らかになった。更に,関連する成果についても総合地球環境学研究所国際シンポジウム(京都)及び第15回国際サンスクリット学会(デリー)において発表した。
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