研究概要 |
今年度も,昨年度から引き続き原典研究を中心に行った。対象テキストは,ジャイナ教論理学者アカランカの著作である『論理の決定』第2章(推理章)およびそれに対するヴァーディラージャ・スーリによる注釈書(=『論理の決定・注解』)である。テキストの電子データ化によって,同テキスト内の用語検索が容易になり,テキスト内の相互参照や他のテキストとの比較対照が可能になった。現代語への翻訳作業については,テキストの難解さから予想以上に時間を要しており,『論理の決定』第2章全体の現代語訳の完成には至っていないが,徐々にジャイナ論理学の体系およびジャイナ教徒の見解と仏教徒の見解との違いが浮き彫りになりつつある。本研究において比較対象としている仏教論理学の分野の研究成果として,"Remarks on the origin of all-inclusive pervasion"を挙げることができる。この論稿は,2009年9月に行われた第14回国際サンスクリット学会において発表した成果("Some remarks on the originof all-inclusive pervasion")にその後得られた情報・知見を補足して,論文の形に整えたものである。これは,近刊の学術雑誌Journal of Indian Philosophyに掲載される予定である。 その他,本研究テーマとは直接関係しないが,2010年12月に京都産業大学・日本文化研究所の定例研究会において「社会苦からの解放を目指して-佐々井秀嶺・B.R.アンベードカル・妹尾義郎の民衆と共にある仏教-」というタイトルで研究発表を行った。この研究は,近現代のインドと日本における仏教を「実践」の視点から考察したもので,古典的インド・仏教思想と現代のインド・仏教思想を連続的なものとして捉えようとする試みである。
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