研究課題
8月~9月にわたり、カトマンドゥおよびインド・西ベンガル州で現地調査を行った。カトマンドゥでは、ムスンバハー寺におけるチャチャー歌謡に関するインタビューを行った。インフォーマント(僧侶)とだいぶ打ち解けてきて、金剛乗仏教の秘密儀礼(チャクラ・プージャー)を執り行うために必要なチャチャー歌を習った。今回は、秘密儀礼のうち、自宅で行うことが可能な最も簡単な形式の儀礼を実際にやってもらい、チャチャー歌をそれに合わせて歌う、ということを行った。またネパール・リサーチ・センターにおいては、カーシーナート・タモート教授とともにネワール古文字の写本を解読した。14世紀チャンディーダーサ作『クリシュナ賛歌』は、中期ベンガル語の最初の作品としてベンガル文学史上重要な作品であるが、その写本は今まで北ベンガルで発見されたもの一点のみが知られていた。ところが、この『クリシュナ賛歌』の写本断片が、カトマンドゥのネワール文字写本の中に混入していることを突き止めた。これは、ベンガル文学史研究に大きな波紋を投げかける潜在力を持った発見である。また、西ベンガル州ではプルリア県を訪ね、バドゥ女神の祭りと、農村の女性たちが伝承するバドゥ女神の悲劇的な物語歌謡について調査した。バドゥ女神は、若くして入水して死んだ未婚の女性が女神になったものであるといわれるが、赤子を抱いた若い母親の姿で図像化される。祭りの日にはバドゥ女神の土人形を祭り、女性たちが夜通し歌謡を歌いながら、供物を捧げて女神をもてなす。そして祭りの最終日には、バドゥ女神を頭上に掲げて水辺まで行進し、水に流すのである。この伝説は、19世紀頃この地域の王家の娘が夭折した事件を核として生まれたものらしい。このように、本年度はベンガル中世文学と、口承のあり方をつぶさに観察することができた。
24年度が最終年度であるため、記入しない。
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,Tokyo University Linguistic Papers
巻: 33 ページ: 293-300
印度民俗研究
巻: 12 ページ: 75-88