本年度は、モンゴル国ウランバートル市においてキリスト教会の調査を行い、また英国において社会主義以前のモンゴルにおけるキリスト教伝道に関する資料収集を2度にわたって行った。 ウランバートル市の調査では、教会活動において外国人宣教師と現地信徒を結びつけるネットワークが人々の祈りや救いの要求とどのように関係しているかを、主に教会や宣教機関が宣教活動に使用する映像、印刷物の収集、分析によって明らかにした。特に、病気治癒や生活改善などの体験談の共有を通じて広がっていく信徒間の繋がりと、教義的に信徒を救いへ導こうとする宣教師のあいだのずれなどが明らかになった。 一方、ケンブリッジ大学図書館聖書協会アーカイブ、ロンドン大学東洋アフリカ学院図書館世界宣教会議アーカイブでは、社会主義以前のモンゴルにおける宣教師の書簡、その他活動記録についての資料を収集した。特に、宣教初期における、聖書の「神」という言葉をどのように翻訳すべきかという問題についての議論や、宣教師と現地住民の接触の様態を示す貴重な資料を入手することができた。 以上のような現在のフィールドワーク資料と過去の文献資料の比較や分析を通して、社会主義以前から現在に至るまでのモンゴルのキリスト教宣教史の全体像が明らかになり、宣教師とモンゴル住民とのあいだの接触様態の変化が、聖書翻訳や教義、宣教論をめぐる議論などと具体的にどのように関係しているかがあきらかになりつつある。
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