研究概要 |
平成23年度は,東日本大震災の影響を大きく被り,研究の遂行に多大の支障をきたした.とりわけ実地調査に従事することは全くできず,東北地方および台湾にて予定していた焼畑など生業関連のフィールドワークは不可能となった.さらに国内外での学会発表も大幅に見送り,その分,文献収集とその読解・分析に集中せざるを得なかった.東北日本の狩猟・漁撈伝承に関するデータベース作成の実現もまた断念せざるを得なかったが,近い将来の課題として残したい. 他方で,別のプロジェクトとの共同作業の成果として,研究において三つの新たな進展を見ることができた. 第1に,東北大学史料館の事業に協力しつつ,東北地方における狩猟活動研究の先学である大島正隆関連の資料整理を進める中で,マタギ言葉など東北日本の生業活動と信仰にかかわる知見を深めることが可能となった.大島は山形県小国町でも調査を行なった人物で,本研究の内容とも直結する. 第2に,地球研のシベリア・プロジェクトとの共同作業の中で,東アジア・東北アジアにおける自然環境と宗教・神話の関連性に関して,研究を進めることができた.これに伴い,東北日本の狩猟・漁携伝承をさらにグローバルな基層文化の枠組みの中において比較検討しつつある. 第3に,味の素食の文化センターとの関係から,肉食と信仰のかかわりについての考察を深めた.これにより,これまで生業活動に特化する傾きのあった研究を,さらに多面的に再検討することが可能になったと考えている.
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