私の研究の全体構想は、「イスラームにおける生命倫理の総合的研究」である。古今のイスラームの生命倫理を文献学的に探求するのみならず、現地調査を行い、現代のムスリムにおける生命倫理に関する意識や実態について、近代以前の伝統的な古典思想の影響を解明したい。その中で本研究では、まず現代の生命倫理について関連する文献を厳密に読解し、明らかにした上で、古典時代の文献の該当箇所と比較し、現代の生命倫理を古典文献にさかのぼって跡付け、古典思想の現代的意義を明らかにし、古典思想と現代の生命倫理の関係および変遷の過程を文献学的に明らかにすることが本研究の目的である。 今年度は、現代イスラームの生命倫理が依拠している古典の議論を検証した。再生医療に関する生命倫理を視野に入れ、生命の発生に関する該当箇所を重点的に調査した。まず、ガザーリーの代表作『宗教諸学の再興』の「婚姻作法の書」を中心に、ガザーリーのスーフィズム文献、法学書、その他の膨大な著作の該当箇所も参照した。また、スーフィーかつ法学者であるイブン・カイイム・アル=ジャウズィーヤ(1350年没)の『霊魂の書』と『預言者の医学』、哲学者かつ医者のイブン・スィーナー(1037年没)の『医学典範』、についても、該当箇所を翻訳、分析した。また現代の法学者や医療関係者のウェブサイトにおける発言についても調査した。
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