初年度である平成二十一年度の研究実績は、下記(項目11)の通りである。本研究計画の目的は「これまで解明されていない清初から清末に到る詩経学における思想史上の動線を明らかにすること」であり、初年度の実施計画として以下の点を掲げた。 (1)陳啓源の詩序論および「小学」に関する学説の時代的意義と乾嘉期への継承過程の解明 (2)『毛詩稽古編』諸テキストの校訂(『四庫全書』所収本、嘉慶十八年刊本、『皇清經解』所収本及び張敦仁校訂手抄本の校訂。また、中国国家図書館所蔵『毛詩稽古編』二種の他、山東図書館蔵本、南京図書館蔵本といった善本の調査も含む。) (3)朱鶴齢と陳啓源の詩経学の比較および清初詩経学の時代的意義の検討 このうち、(2)に関しては作業を継続中であるが、全体としては(1)および(3)と、申請時に次年度以降の実施計画として掲げた清初諸学者の詩経学および乾嘉期諸学者の詩経学に対する考察まで含めて作業は順調に進行し、結果として本来次年度に達成する予定であった目的「清初詩経学における諸学説とその特色へに留意して、清初以降の詩経学者と『詩経』研究書に検討を加え、清初詩経学の学術的成果がどのように引き継がれているか、その経路と展開を明らかにする。」をほぼ達成し得た。その成果は二度の国際学会での発表と論文発表に顕著であるが、最終的には単著『陳啓源の詩経学・『毛詩稽古編』研究』として結実した。概書は陳啓源の詩経学を解明するとともに、清初以降の詩経学の展開に関してこれまで未解明であった詩序論の継承にまつわる諸事情に着眼して研究を進めた点に独創性を有すると愚考する。
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