平成23年度の研究実績は(項目13)に提示した通りである。本研究計画の目的は「これまで解明されていない清初から清末に到る詩経学における思想史上の動線を明らかにすること」であり、この目標を到達すべく、前年度までの研究を継続しつつ、当該年度の実施計画としては次の二点を提示していた。 (1)、前年度までに整理・収集した、清初以降の諸学者の清初詩経学に対する態度について考察を加え、清初詩経学と乾嘉期以降の詩経学における思想的連続性を明らかにする。 (2)、清初詩経学の学術的価値を再確認し、多くの学術的継承によって成立した清代詩経学の実像を再構築する。 これら二点に関しては、学術発表「清初詩経学における詩序論」および「清朝中期詩経学に関する試論」を行った。これら二回の発表を総合して得られた結論を概括すると、おおむね以下の通りである: 清初詩経学に確かな学術的価値を認めた後代の学者達は、自らの詩経研究に際しては、清初詩経学の学術成果をはっきりと継承していた。また同じく後代、清初詩経学者達が見せた研究成果に関して思想的見地から対立する学者達が存在し、清初詩経学の成果を否定すべく議論を進めていたことが明らかとなった。こうした学者による批判を分析することによって、いわば逆説的に清初詩経学の影響力を認識することが出来た。また、この学術的対立構造から、清代詩経学が持つ人的構造の一端を解明し得た。
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